子どもの世界は沼地だ。一度入るとおもしろ過ぎて抜け出せない。
四條畷学園短期大学 ムッシュ香月(香月 欣浩)
私が子どもの世界に入って28年が経過した。いればいるほど居心地がよく、奥深く面白いこの世界に、ますます引き込まれていく。
そして気が付くと私は我を忘れ、子どもたちと遊んでいる。“自分が溶けていく”そんな感覚だ。子どもたちも私と同じように、色々なことに夢中になり、自分と「もの・ひと・こと」との境目が分からなくなる「溶解体験」を日々送っていると思われる。
私たち大人も周りが目に入らなくなり、あっという間に時間が経過していく経験がきっとあるはずだ。世界と自分が一体化する瞬間だ。そんな環境や時間を私は子どもたちに「与えている」のではなく、「子どもたちと一緒に楽しんでいる」。
絵の具のついた筆を天井に向かって振っている子どもがいる。いたずらではない。表情は大まじめで、眼差しは鋭く本気だ。「どうなるんだろう?やってみたい!知りたい!」これが子どもたちの原動力となって、行動に火をつける。子どもは大人の様に後先を考えない。いやそもそも「後先」が分からない、知らないから「やってみたい!」のだ。
そんな子どもたちと一緒に活動をしているとワクワクする。子どもにとって、生まれて初めての経験、挑戦、発見、驚きの場面に立ち会える。最高なポジションだ。
私は子どもたちに助言をしない。先回りをせず子どもの後ろから子どもと同じ方向を笑顔で見ている。自分を認めてくれる、応援してくれる大人が側にいる。それだけでいいと考えている。ひょっとすると子どもたちは私のことを「大人」ではなく「仲間」と思っているのかもしれない。そうならば最高にハッピーだ。
ここに紹介する写真のほとんどは、子どもたちがたくさんの材料(紙、板、プラスティック、土、絵の具など)や道具(スプレー、釘、スポンジ、コーヒードリップなど)の中から自分で選び組み合わせて活動を行なっているものだ。
天井から吊るしたトイレットペーパーに、スプレーで絵の具を吹き付けていた子がいた。大量に絵の具をかけるので、色水は流れ落ち床にどんどんたまっていく。池になり、湖になり、海となっていった。子どもの興味はトイレットペーパーから、床にたまった色水に移っていく。色水におもちゃを浸して持ち上げる。子どもの表情が一変した。「ムッシュ!見て見て!!」子どもが見せてくれたドーナツ状のおもちゃを見ると、穴の部分に色水の膜が張っていた。そして膜の中で色水の模様が流動しているのだ。それは見たことのない“美”の世界、発見であった。
もし私が床に大量に溢れた色水を雑巾で拭くように助言していたら、子どもも、私もこの発見、感動を失っていただろう。「発見は想像もしていない○○から生まれる」常識だけで活動を行なっていたら世界が狭くなってしまう。
これからも子どもたちが見たことのない世界を発見していくために、私は透明人間に徹していこうと考えている。そして子どもと一緒に冒険、挑戦をして「新しい世界」の扉を一生開き続けていく。
ムッシュ香月(香月 欣浩)(むっしゅかつき)
2014年NHK Eテレ「いないいないばあっ!」造形指導
小学校美術専科教諭を経て、現在は四條畷学園短期大学保育学科 准教授・キッズアート研究所代表