著者の末冨氏は京大出身の教育学者で、現在、日本大学文理学部教授である。共著者の桜井氏は大阪市大出身の社会学者で、現在、立命館大学産業社会部准教授である。
子育て罰とはChild Penaltyの訳とされているが、子育てすることが社会的に罰を課せられている状態を指している。本書では「そうであってはならない。課す側の政治や社会に責任がある」とし、「子育て罰」を政治と社会の場からなくそうとする概念として用いている。
桜井氏は自治体ケースワーカーとして働いた経験において、我が国の福祉の問題を実感したところから出発し、未冨氏は自身の子育て中に「駅でベビーカーを蹴られた」と実体験から、日本の社会における「子育てする親に対する冷たさ」を感覚的に捉えながら研究されている。本書ではそれぞれの経験・体験を通して、我が国のこども、子育てする親に対するさまざまな不合理を、実例を挙げて紹介している。
我が国のこども、子育てに対する国家投資はヨーロッパ諸国と比して極めて低く、デンマークやフランスの2分の1から3分の1であるなど、政治のあり方についても問題提起している。
とにかく驚くのはその改善策として、こども、親にやさしい日本に進化させるために、2つの条件、すなわち、1)その意識をもつ国会議員を増やすこと、2)自身を含めて有権者の行動が変化する必要性を挙げていることである。
私自身もこどもの成育環境改善のために、法律を含めた社会システムを変えるためには学術的なエビデンスに基づき、さまざまな私たちの行動が重要であることを認識している。今まで未冨氏のような具体的な政治的働きかけをしてこなかったわけではないが、不十分だったという反省がある。ぜひこども環境学会も、こどもたちのために、社会システムを変えていくためには、五十嵐会長が主導されているこども基本法の運動と同様、未冨氏のように政治的にも積極的に働きかけをしていく努力を、学会としてもやっていくことを考えねばならないことを示唆している。そういう意味でも極めて重要な本といえる。
(東京工業大学名誉教授 仙田満)
書名:子育て罰 「親子に冷たい日本」を変えるには(コソダテバツ)
著者:末冨 芳 (著)、桜井 啓太 (著)
発売日:2021年7月14日発売
定価:1,012円(税込み)
ISBN 978-4-334-04551-7
光文社新書
https://www.kobunsha.com/shelf/book/isbn/9784334045517