小澤 紀美子(東京学芸大学名誉教授 • こども環境学会理事)
警告は受け入れられたのか?
皆さんは、スウェーデンのグレタ・トゥーンベリさんが2019年9月23日、国連気候変動サミット(ニューヨーク)でスピーチを行い、「地球温暖化に本気で取り組んでいない」大人たちを叱責したことを記憶しておられるでしょうか。2015年COP21のパリ協定以降注1)、ベルギーをはじめ世界各地でスクール・ストライキや気候マーチが広まりました(写真)注2)。
私たちは水と緑の惑星、地球上に生きている
私たち人間は自然の一部で自然から多くの恵みを得て生命を維持しています。地球の表面の4分の3は水ですが、そのうちの約98%は海水で、人が使える地球上の水は0.01%しかありません。
一方、日本の総合食料自給率は37%(カロリーベース計算)しかないのです。不足分は海外に依存していて、多くの食材が外国から輸出され、食卓に上がっているのです。今般の新型コロナウイルス感染症に関連し不足が問題化した「マスク」も海外に製造を依存しており、日本人の生活が自立していないことは明らかになりました。
温暖化の影響を受けて主食であるコメの生産地にも影響が出ており、さらに自然災害による大雨被害が各地で発生しています。海外での森林火災の状況もテレビのニュースで目にすることが多くなってきています。海水温度の変化により毎年の漁獲量も大きく変動してきているのです。日本の降水量は1898年の統計開始以降、「年ごとの変動幅が大きくなっている」と気象庁は示しています。
1988年に「気候変動に関する政府間パネル」(IPPC)注3)が設立され、地球環境問題の科学的評価を進め、第5次評価報告書(2013年)では人間の活動が温暖化へ及ぼす影響を95%以上と「極めて高く」「疑う余地がない」としています。具体的に環境省は「気候に対する人為的影響は、大気と海洋の温暖化、世界の水循環の変化、雪氷の減少、世界平均海面水位の上昇、及びいくつかの気候の極端現象の変化」と指摘しているのです注4)。
豊かな感受性と想像力を育む
日本でも極端に暑い日が増加してきており、夏になると熱中症への警告が発せられます。「茹でガエル」現象が起きていると気象学者は警告しています。カエルを水に入れて徐々に温度を上げていくと、温度の上昇を知覚できずに死んでしまうことの比喩で、ゆっくりと進行する危機や環境変化への対応の難しさを示しています。
新型コロナ感染症で世界の経済活動が停滞し、温暖化効果ガスや大気汚染物質の排出量が急減していますが、「脱炭素社会」へ向けた持続可能な社会づくりが後回しになる不安もあります。経済停滞の長期化への懸念が大きくなってきているからです。「密」を避けるのであれば、日本全体でみると、東京や首都圏への一極集中を避け、「地方分散」による均衡ある国土の再編成も求められています参1)。
こうした状況下での子育てでは、親子一緒に心身ともに健康であること、具体的には、十分な睡眠、ゆっくりと食事を楽しみ、日本の気候風土に合った発酵食品を摂取して「免疫力」を高めることが大切です。限られた住空間の中で体と頭を使って過ごし、愛着形成を十分にしていくことも大事です。遊びや体の動かし方は、こども環境学会のHP参2)をご参照下さい。緊急事態宣言で自粛行動が求められている時期、親のストレスが子どもへ影響しますので「深く深呼吸して」冷静に子どもへ対応しましょう。幼い子どもは、見るもの、聞くもの、触るものなど「これは何?」「なぜ?」「どうして?」と「問い」を発します。こうした発問に「共感力」をもって対応し、分からないことは一緒に考えてみて下さい。さらに絵本を楽しむことも重要です。「読み聞かせ方」を変えるだけで子どもの感受性を豊かにし、想像力が活性化します参3)。こうした親子の対話が子どもの「直観力」を育み、将来的には論理的思考力の育成につながります。
小澤紀美子(こざわきみこ)
東京大学大学院工学系研究科博士課程修了 (建築学専攻) 後、(株) 日立製作所システム開発研究所を経て、現在、東京学芸大学名誉教授 • こども環境学会理事。日本ESD学会副会長・NPO 法人こども環境活動支援協会元代表理事。工学博士、技術士(地方および都市計画)。著書として、『キッズプレイス』 (萌文社)、『子ども・若者の参画』 (萌文社)、『まちは子どものワンダーらんど─これからの環境学習』 (風土社)、『まちワーク:地域と進める校庭&まちづくり総合学習』 (風土社)『環境教育』(金子書房)『持続可能な社会を創る環境教育論』 (東海大学出版会) など。