特集 コロナ渦と保育園の外遊び

大久保わかくさ子ども園 伊藤祐基
新型コロナウイルスが流行してから早くも三度目の春を迎えようとしています。
この間、保育施設での状況にどんな影響があり、何が変わり・変わらなかったのか。
外遊びやこどもの環境面から振り返ってみます。
全面砂場の園庭にて、泥遊びに興じる様子

都会の真ん中にある子ども園です

筆者の勤務園は東京都新宿区にある、認可保育園(保育所型認定こども園)であります。老朽化した公立園の跡地に、2015年本法人が運営する民設民営の認定こども園を開園しました。東京23区内ながらも、砂場の園庭や別棟アトリエを備えた、子どもに配慮した環境であると自負し、ています。保育所保育指針に基づいた、子ども主体の保育の実践と、持続的な勤務が可能な職場の両立をテーマにしています。

コロナ第一波 遊びの制限はなるべく避けてきたが……

もう遠い昔のことのようですが…… 当初この感染症は、大人、特に中高年のみが重症化し、若者や10歳以下の子どもについては無症状であり、しかも子どもから他者へはうつりにくい、という状況が報告されていました。
このため大人からの感染を防ぐということに主眼を置き、保護者や職員の健康観察を行い、体調不良者に関しては無理せずに休んでもらうことにし、園内においてはおもちゃを含めた定期的な巡回消毒を徹底しました。
たしかにコロナウイルスの感染を防ぐことも大事なのですが、一方で、乳幼児期に大切にし、目の前の子どもたちの育ちを支え、人間としての「根っこ」を育てていかなければならない思いは強くありました。
「他者への基本的な信頼感」、「ここにいてもいいんだという安心感」、「失敗してもまた挑戦してみようとするチャレンジ精神」。トライアンドエラーを繰り返すことができる幼少期だからこそ、子どもたちに育んでほしい力です。家庭にはない子ども集団の利点を活かして、「生きる力」の基礎を育んでいると考えています。

外遊びの制限は特にせず

幸い本園では、園長をはじめ、保育の中で子どもに育ってほしい資質・能力について、思いが強く、ぶれることはなかったため、コロナを理由にして直ちに遊びの制限をする、ということはしませんでした。
今回のこども環境楽は「外あそびの特集」ですので、本園の外あそびについては振り返ってみると、コロナの前後に特に変化はなく、何か制限をつけたということはありません。感染症を考えるとき、園外での活動は、むしろ室内に比べて外あそびの方が安全であるという認識でいました。感染症対策に注意を払わなければならない今、むしろ換気の必要がない屋外は、天候・気候の条件が許す限り、安全に遊べるフィールドといえます。
一方で、保育現場としての悩みは、「保育の方針」と、感染症対策(保育の安全性)がぶつかり合うときです。
園庭での外遊びは、最も「安全」なフィールドのひとつ

安全性と保育の方針がぶつかる時

この一番顕著な例が、0~2歳児における保育者のマスクの問題です。
一般に、赤ちゃんは身の回りにいる大人の表情から、ことばを習得していったり、喜怒哀楽などの細やかな感情を読み取ったりすると言われています。園で多くの時間をともにする保育者の表情が、一日中マスクで隠れてしまっていいのだろうか? これは赤ちゃんの発達に将来的に大きな影響を及ぼさないだろうか? このような疑問や不安を現在も抱えています。
もちろん、マスクの着用については本園でも大いに悩みました。口元が見えるような透明マスクも何種類も購入してみて試行錯誤しましたが、衛生面の問題やそもそも見た目が赤ちゃんにはすごく怖く異様に見える(大人にもそうかも)ため、透明マスクの導入は見送りました。
結局、職員間での感染を防ぐことは大切であるため、現在本園では食事介助時以外は、不織布マスクの着用を徹底しています。

コロナと行事 -延期と中止の3年間-

多数の大人(保護者や祖父母)が参加することになる園行事は、難しい判断となりました。
当初から、できる限り実施できる方法を探っていこうと、試行錯誤をしてきましたが、それでも保護者が密集や密接になる行事や、地域と触れ合うような行事は中止せざるを得ませんでした。
例えば親子で歩いてより地域を知ってもらうことを目的とした「ウォークラリー」や、保護者が保育士として園の保育に参加してもらう「保育士体験」、遠くから保育の様子を観察してもらう「保育参観」など、この2年間中止を余儀なくされました。また園内でとり行う「夕涼み会」も、保護者参加により密集や密接が避けられないことから、この2年間見合わせました。
こうした園行事の縮小によって、園の保育を理解したり、子どもの成長を共に喜び合ったりする機会が少なくなってしまったかな、という思いがあります。
その一方で、運動会については屋外の会場(小学校グラウンド)を借りることにより、招待者数の規模を縮小した上で開催することができました。
また、クラス懇談会をオンラインミーティングで実施したり、作品展を360度カメラで撮影して公開してみたり、Youtubeの限定公開機能を活用した保育動画の編集・公開など、インターネットやICTをなるべく活用した取り組みによって、「子どもの育ちを伝える」という点については、補うことができたのものと考えています。

小グループでのコーナー保育が、クラスターを防いだ可能性

こうした対策を行った上で保育を進めてきましたが、完全にコロナウイルスを避けることは困難であり、これまで何度かの休園は経験しました。ただし、本園では爆発的な感染が園内に広がったことはありませんでした。
コーナーの一例(おままごとコーナー)
本園で爆発的な感染が無かった理由としては、本園はもともと、一斉的に子どもを動かす保育スタイルではなく、子どもが自分で活動を選ぶような保育のかたちを多く取り入れてきたことがあるかもしれません。
具体的な園内環境では、「コーナー保育」の取り組みがあり、広い部屋のスペースを細かく区切り、興味関心に合ったおもちゃや遊び環境をエリアごとに用意し、子ども自らが誰とどこで遊ぶのかを選ぶ保育を行っています。さらに、食事や着替え等については、子ども自らが主体的に生活を営んでいくことを大切にしているため、一定の時間の範囲の中で子どものペースで進められるよう工夫しています。

このような保育スタイルは基本的に小グループでの活動になるため、これが結果的に爆発的なクラスターを防ぐことになった可能性があると考えています。

コーナーでの遊びは基本的に少人数になる

おわりに

本園ではこの数年間、コロナと対峙しながらも、基本的には「子どもの育ち」を真ん中におき、行事の休止や保育の制限については最小限にとどめてきました。
一方で、外部と関わりをもち、新しい活動にチャレンジする場合、コロナが大きな障壁になったことは事実です。例えば商店街や学校、大学、地域住民など、特色ある地域資源の活用は困難であり、地区の保幼小連携協議会や各学校への行事参加は、この2年間コロナを理由に取り止めになっています。
今後コロナ感染症は収束していくのか、それとも拡大しこれと共存していくのかは誰もわかりません。しかし、感染症を含めて先行きが不透明な時代だからこそ、生涯にわたる生きる力の基礎を育む新しい保育環境の創造が求められていると思います。地域との新しいつながりを模索しながら、子どもを真ん中においた保育の実践を引き続き重ねる中で、望ましい未来をつくっていけるよう努力していきたいと考えています。

伊藤 祐基(いとう ゆうき)

社会福祉法人若草福祉会 大久保わかくさ子ども園 事務兼保育士
明治大学政治経済学部卒業後、日本教育新聞社に入社、文科省、厚労省等の教育保育行政や学校園現場など幅広く取材する。たまたま幼稚園・保育園担当となり、従来型の学校教育とは真逆である、環境による「型にはめない」教育や、遊びを通じた育ちの世界に面白さを見出す。その後、保育関係のウェブディレクターを経て現職。保育士資格は記者時代に審議会取材の傍ら取得した「門前の小僧」。ほかに東京都福祉サービス第三者評価委員など。