今だからこそ問い直す我々大人の役割 ~こどもにとって「うれしい人」になれるために~

教育・保育業界に32年携わってきたからこそ思う~こどもおとなも自分らしく人間らしく生きることを楽しめる保育環境の魅力~

 

社会福祉法人たちばな福祉会 「RISSHO KID`S きらり 岡本」園長 坂本喜一郎

正義感の持つこわさ/頑張る自分と頑張らない自分/生きるパートナーと出会い

正義感の持つこわさ

33年前、私が教育・保育業界に携わることになった最初のきっかけは、小学校時代に出会った個性溢れる魅力的な学級担任の先生方との出会いにあります。自然をこよなく愛する心、こどもをとことん信じ切る情熱、何でも挑戦させてくれる懐の深さなど、今の私の生き様を支える大切な存在となっています。
ですので、小学校生活を送りながら自然と母校に勤めることが夢となり、33年前に母校の教員となったのです。その頃の私は、憧れの大先輩の姿をモデルに「いかに豊かな学びの経験を子ども達に提供するか」に邁進する日々でした。そして、いつしか「自分が頑張れば頑張る程、子ども達が幸せになる」と信じ、がむしゃらに教員生活を送っていたように思います。しかし、今大いに反省することがあります。それは、自分の正義感を信じ情熱的に教育に取り組む一方で、それに基づいた生き方を子ども達に求め過ぎてきたのではないかということです。
昨今の乳幼児及び初等教育にふれて思うことは、それらに携わる先生方の正義感の強さから、苦しんだり辛い思いをしたりしてきた子ども達が、多く存在していたのではないかという危機感です。そこで、今何より大切に思う事は、「こども一人ひとりが、魅力的な大人との出会いに心地よい刺激をもらいながら、自分らしい生き方を見つけていけること」なのではないかと強く感じています。

「頑張る自分」と「頑張らない自分」の共存

現在、乳幼児教育の仕事に携わるようになって13年目を迎えます。当初を振り返ると、いつも無意識に「こどもの生き生きと活動する姿(=頑張る姿)」を追い求め、情熱的によりよい遊び環境のあり方を探究する自分の姿を思い出します。しかしこの視点は、私だけではなく、現在現場で活躍する多くの保育者が持つ視点でもあるかもしれません。しかし、そんな私の価値観が見事に覆される出会いが2つありました。大学院時代に出会った恩師である故柴崎正行先生と、保育の師匠である富津市にある「わこう村 和光保育園」の鈴木眞廣先生です。
その頃の私は、大学院での学びや全国の魅力的な保育園に足を運んでは、こどもに有益な遊び環境を通した子ども主体の質の高い保育の探究に没頭する日々でした。しかし一方で、遊び環境の限界も感じる自分がいました。それは、どんなに遊び環境の質を向上させても、どこかで遊びが停滞してしまうというジレンマでした。
そんな中、「わこう村」に訪れた際に、私に解決の糸口を下さったのが鈴木眞廣先生で、また「わこう村」の人間らしく生きる子ども達の姿も印象的でした。全力で遊んだ後には、自然にこども達のくつろぐ姿が現れており、そのためには、それを保障する豊かなくつろぎ環境が不可欠です。実は、魅力的なこどもの遊びは、豊かなくつろぎによって成り立っているのです。このような考えから、私が園長を務める「RISSHO KID`S きらり」の保育においても当初より多様なくつろぎ環境と多様な生きるリズムを大切にしてきています。

「生きるパートナー」である魅力的な大人との出会い

「きらり」の保育において、日々試行錯誤を繰り返しながらも我々なりに見えてきた保育の営みに欠かせない大事なことを大きく3つご紹介します。
➀こどももおとなも自分らしく人間らしく生きる
➁頑張る自分(=活き活きした自分)たけでなく、頑張らない自分(=くつろぐ自分)も大切にする
➂子どもが自らよりよく生きるためにも「憧れの存在」との出会いを大切にする
中でも、これからのこども達にとって、魅力的な生き方を気付かせてくれる「憧れの存在」の大人に出会えることが大切です。「きらり」の保育においては、日々保育者間で大切にしている言葉に、倉橋惣三が語った「うれしい人」というものがあります。そう!こども達は日々自分らしく生きる姿を見つけ体得していく上で「いつも一緒にいたいと思う、生きることを共に楽しんでくれるパートナーとの出会い」を待ちわびているのです。我々大人も含め、人は自分にない憧れの存在と出会った時、「あの人のようになってみたい!」と感じ、心躍らせ新しい生き方を体得し始めます。まさに小学校時代の私が恩師との出会いで小学校教員になり、現在の私の保育観の基盤となってきたように。
今、日本の保育・教育に必要なことは、こどもだけでなく大人も自分らしく人間らしく生きることだと確信しています。そのためにも、我々大人がこどもにととっての「うれしい人」となり、こども達と生きる喜びを共有・共感できるパートナーになっていく時なのではないかと、ますます強く感じています。

坂本 喜一郎(さかもと きいちろう)

社会福祉法人たちばな福祉会 「RISSHO KID`S きらり 岡本」 の園長(昭和42年生)玉川大学卒業後、同学校法人小学部及び幼稚部教諭(12年)を経て、実家の運営する立正保育園副園長に就任。平成24年に「RISSHO KID`S きらり」を相模大野に立ち上げ、「RISSHO KID`S きらり 岡本」が4園目になる。玉川大学をはじめ複数の保育士養成校非常勤講師及びセミナーや研修講師を務める。