世界のこども環境 オーストラリアの学童保育

WOMBAT FAMILY 代表 松本 遼子

WOMBAT FAMILY acknowledges the Traditional Owners of the Land on which we work. We pay our respects to Elders past and present, and extend our respect to all Elders and Aboriginal and Torres Strait Islander Peoples across Australia.

【オーストラリアの学童保育とは?】

私は、オーストラリアの現地の公立小学校に併設する民間学童保育施設で、プログラムマネージャー(学童保育施設の責任者)として勤務しています。
先ずは、オーストラリアの学童保育に関して簡単にお伝えしたいと思います。
オーストラリアの学童保育施設数の半数以上は民間企業が経営しており、殆どが、小学校内に併設されています。オーストラリアでは、小学校はFoundation(小学準備学年、日本の幼稚園年長児にあたる年)から小学校へ通いますので、最年少で4歳から最年長で12歳までの子どもたちが学童保育で過ごしています。

保育時間は、小学校開始前の保育(Before School Care : BSC)の午前7時から8時45分、そして放課後保育(After School Care : ASC)の午後3時30分から6時までとなっています。長期休暇期間は、午前7時30分から6時まで利用可能となっており、遠足へ行ったり、外から講師を呼んで特別のアクティビティなどをしています。私が勤務する学童保育施設には、毎日BSCではおよそ25名ほど、そしてASCではおよそ60名ほどの子どもたちが利用しています。

Before School CareとAfter School Careでの過ごし方

 

BSCでは、朝食を摂っていない子どもたちには、BSCで朝食を提供します。朝食内容は、トースト(バター、ジャム、ベジマイト)、コーンフレーク、オートミールなどを用意しており、指導員が準備をします。週に1度くらいは、パンケーキやレーズントースト、ヨーグルトやスムージーなどの特別なメニューを用意しています。

朝食を食べ終わった後は、アクティビティ(あらかじめ計画していた保育内容)をしたり、自由に遊んで室内で過ごします。朝の保育は、まだ眠たい子どもも多く、比較的静かに過ごすことが多いです。朝のアクティビティの内容は、アート&クラフトやウェルビーイング活動、室内ゲームなど、1日の始まりを穏やかに落ち着いて過ごし、小学校で良いスタートができるよう配慮しています。8:45になると、各自教室へ向かい、朝の保育は終了します。

ASCでは、まずおやつを食べます。おやつのメニューは毎日異なりますが、基本的には5・6種類の野菜や果物と、2種類の炭水化物を準備しています。オーストラリアの学童保育監査ルールより、ヘルシーな献立を用意しなければいけませんので、ポテトチップスやクッキーなどのおやつは、毎日のおやつとしては用意していません。

おやつ後は、晴れている日は主に小学校のグランドで遊んで過ごします。バスケットボールやサッカー、おにごっこなどの体を使った遊びや、木陰にレゴブロックやボードゲーム、ドールハウス、お絵かきやぬりえなどを用意し、子どもたちがそれぞれ選んで遊んでいます。

ASCのアクティビティは、①体を使った遊びと②アート&クラフト、サイエンス、クッキングなどの2種類を毎回計画しています。保育案は、プログラムマネージャーが計画しています。

オーストラリアの学童保育は、アクティビティの計画をする必要があり、これらの活動は子どもたちが自由に選択することが出来ます。強制ではないので、このアクティビティをしないといけない、ということはなく、あくまでも子どもたちが自分でそれぞれ遊びを選んだり、ゆっくりと休んだりして過ごすことを大切にしています。

オーストラリアは、元々の先住民であるアボリジナル・ピープルやトレス海峡諸島の人々をリスペクトし、文化を尊重し継承することが非常に重要と考えられています。次世代に継承していくために、先住民族に関する経験を多くできるよう保育計画をする必要があります。

また、オーストラリアは多民族国家とよばれていることもあり、様々な国や文化の人たちが暮らしています。そのため、国や文化をテーマとしたアクティビティも多く取り組んでいます。

アクティビティは、基本的に学校行事、オーストラリアや世界のイベント、子どもたちの姿やリクエストから作成しています。中でも、子どもたちの声を一番重要としており、学童保育国家指針のタイトルにもある、「わたしの時間、わたしたちの場所」を大切に計画しています。

 

新しい取り組み:低学年と高学年の空間を別れての保育

オーストラリアの学童保育を利用する子どもの年齢は、低学年が圧倒的に多く、高学年は比較的少ない傾向があります。4歳から12歳の子どもたちが60人、同じ部屋で過ごすことは決して安全で穏やかな環境とは言えません。また、日々の保育より、私は高学年(5、6年生)の学童保育での過ごし方に疑問を抱くことが多くなりました。その背景として、利用児童が多い低学年に合わせたアクティビティの内容が多くなってしまい、それによって高学年の子どもたちにとっては物足りない内容であったり、いつも高学年の子どもたちが低学年のサポートをする機会が多くなっていました。勿論、異年齢の子どもたちが共に過ごすことで学び合うことや得れることもたくさんありますが、高学年の子どもたちが自分たちのために過ごす時間を大切にしてほしいという願いから、今年より、活動グループを大きく変えました。

グループ1は、Foundationと1年生。グループ1は、図書室でおやつを食べて外遊びへ行きます。グループ2は2年生から4年生の子どもたちが多目的室でおやつを食べてから外遊びへ行きます。グループ1と2は、おやつ後はグラウンドで合流して過ごします。

一方で、グループ3は、5、6年生の子どもたちです。図工室でおやつを食べ、その後30分ほど「5、6年生クラブ」の活動をし、その後にグランドで遊びます。

3グループに分けて各グループがそれぞれ少人数で過ごすことで、安心して落ち着いた雰囲気で放課後を迎えることが出来、全グループが落ち着いて過ごす姿が見られるようになりました。

5、6年生クラブ ー「ひみつきち」の活動ー

5、6年生クラブ「ひみつきち」は、子どもたちが話し合って活動を決定していきます。今年は、子どもたちの話し合いからクッキング活動、スライム作り、フットボール、面白ムービー作り、近所の公園へのお出かけなど、様々なアクティビティに取り組んできました。

この取り組みを通して、5、6年生の姿に変化が見られるようになりました。先ず、学童に来ることを楽しみにする姿が見られるようになり、そして、子どもたちからやりたいことがたくさん出てくるようになりました。また活動だけでなく、5、6年生だけの空間を楽しみ、「特に何もしなくても、話してるだけでいい。」と、自分たちの居場所があることで、リラックスした表情が見られるようになりました。

また、低学年の子どもたちは、高学年が「5、6年生クラブ」の活動をしている間は、思いきりグラウンドでバスケットボールやドッジボールをして遊ぶことが出来ており、それぞれの空間を作ることで、それぞれが思いおもいに過ごすことができるようになりました。

新しいことを取り組んで、目の前の子どもたちが楽しく過ごすことの大切さや、わたしたち指導員も楽しむことの大切さに、改めて気づかされています。

松本 遼子(まつもと りょうこ)

【CommunityOSH 】  学童保育施設・プログラムマネージャー
【WOMBAT FAMILY】代表
現在、オーストラリアのメルボルンの現地小学校に併設する民間学童保育施設で、プログラムマネージャーとして勤務。また、近年にオーストラリアと日本の架け橋になることをミッションとした【WOMBAT FAMILY】を立ち上げ、フリーランスとして教育と保育の分野を中心に活動している。現在の主な活動は、オンライン英語、留学や研修サポート、幼児教育研究者の現地コーディネーターなど、幅広く取り組んでいる。
大阪総合保育大学院博士前期課程終了。研究領域は、オーストラリアの学童保育。