特集 「生活の場」を保障する学童保育の整備課題

小伊藤亜希子(大阪公立大学)

日本の学童保育

子どもの放課後の居場所をどう保障するかは、世界各国共通の課題となっている。日本で学童保育が法制化されたのは1998年の児童福祉法改正によってであったが、共働き家庭がまだ特別だった戦後まもなくの時代から、父母会運営など必要に迫られた現場での実践が先行し、制度化へ自治体や国を動かしてきた。その過程で大切にされてきたのは、子どもたちが「ただいま」と帰って来ることができる家庭に代わる「生活の場」をつくることであり、それが日本の学童保育の基盤となっている。
法制化後は、女性の社会進出を背景にその数は増加し続け、この20年で施設数は倍増、登録児童数は3倍を超え、いまや、学童保育は多くの子どもが日常的に過ごす場となった。

自由に遊び、かつごろごろできる場の保障

 

学童保育が大事にしてきたことの一つは、自由な時間のなかで子どもたちが仲間とともに主体的に遊ぶことである。地域から、子どもが自由に遊ぶための、空間・時間・仲間の条件が縮小している現代、学童保育は、異年齢の仲間集団のなかで子どもたちが思いきり遊べる貴重な場となっている。同時に、学校の学習時間が増加し、疲れて帰ってくる子どもたちにとって、学童保育は、ごろごろしたり、何もせずにぼーっとしていられる場であることも大切である。
しかし、法制化後も学童保育には施設や職員配置の基準がなく、不十分な施設環境のまま増大する需要に対応するなか、大規模、過密などの問題をかかえてきた。何十人もの子どもがひしめく空間は、子どもたちがほっこりする場にはなり得ず、指導員は大声になり、一人一人の子どもに向き合うことが難しく管理的にならざるを得ない。
2007年の厚生労働省による「放課後児童クラブガイドライン」、続いて2014年の「放課後児童健全育成事業の設備及び運営に関する基準」によって、ようやく専用区画の面積1人あたり1.65㎡以上、1支援単位おおむね40人以下等の基準ができたところである。しかしこれらは参酌規準*に留まっている上に、1人1.65㎡とは畳1畳程度の広さに過ぎない。学童保育の空間整備は、生活の場を保障するために、早急に取り組むべき課題である。

 

 

*「従うべき基準」に対して「参酌すべき基準」は、地方自治体が十分参酌した結果としてであれば、地域の実情に応じて、異なる内容を定めることが許容されるもの。

 

 

出典:令和4年(2022年)放課後児童健全育成事業(放課後児童クラブ)の実施状況 厚生労働省 Press Release

 

学童保育の運営主体と実施場所

さて、実践が先行してきた経緯により、学童保育の運営主体や設置場所は、自治体によって様々である。全国的に運営主体は民間委託が進んでおり、公立公営から公立民営、民立民営が増え、公営は1/4程度になっている。

また近年は高付加価値(英会話やダンスなどのサービスつき)をうたう企業参入の動きもあるが、子どもの自由な放課後の時間保障の観点からも注視する必要がある。
設置場所は、余裕教室を含めて学校敷地内が増加傾向にあり、すでに半数を超えている。そのほか、児童館内、公民館などの公的な施設内、保育園等の法人施設内のほか、空き家等の民家・アパートを借用しているものもある。

学童保育情報2022-2023(全国学童保育連絡協議会)より作成

 

 

それぞれの施設タイプによって、抱える空間課題もまちまちである。いずれの施設においても、静動の活動分離や少人数でほっこりできる小空間をいかにつくるかが課題になっているが、特に基本的にワンルームである学校の余裕教室利用の場合は工夫が必要である。また学校側の理解を得て学校施設をいかに利用でき、限定された施設空間を補うことができるかが課題である。民家等を利用する学童保育では、多様な子どものニーズに対応した場所の選択が可能である、地域との関係が作りやすい等の魅力があるものの、建物性能、安全性確保や設備の更新等、学童保育利用に対応した十分な改修を行うことが必要である。

 

 

囲い込み型から拠点型へ

もう一つ、子どもの放課後の居場所に求められるのは、地域の中で育つ環境である。親の労働時間に合わせて、学童保育の開所時間も長くなり、暗くなるまで学童保育で過ごす子どもも少なくない。2015年の放課後児童クラブ運営指針から事業の対象が6年生までに拡大したが、帰宅時間まで外に出ないという想定では、子ども時代の放課後を施設に囲い込むことになってしまう。海外でも子どもの移動自由性(Children’s Independent Mobility)の保障が課題になっている。これからの学童保育は、子どもが放課後を安心して過ごせる場であると同時に、居場所を地域に広げ、子どもが自由に地域を移動して遊ぶための拠点に、位置づけをシフトしていく必要があるのではないだろうか。
拠点性を備えた学童保育の概念図 (出典:塚田由佳里:地域拠点性を備えた学童保育所に関する研究、大阪市立大学学位論文、2013)

小伊藤 亜希子(こいとう あきこ)

大阪公立大学大学院生活科学研究科教授、博士(工学)
多様化する家族や住み方に対応した住宅の計画、子どもの放課後の遊びや施設環境について研究している。日本学童保育学会理事。
著書に『子どもが育つ生活空間をつくる』(編著・かもがわ出版)、『子どもを育む住まい方』『子どもを育む暮らし方』(いずれも共著・大阪公立大学出版会)、『学童保育研究の課題と展望 :日本学童保育学会設立10周年記念誌』(分担執筆・明誠書林)等。