【書評】こどもまちづくりファンド -ミュンヘンから高知へ

読み終えて心に浮かんだのは、「未来はこどもが連れてくる」という気づきだった。
近年の厚顔大人の君臨にうんざりする社会において、誠に清々しく元気のでる本である。

本書は7章のうち最初の2章がミュンヘンの取組みの紹介で、後半はすべて2008年からの高知の取組みについてだが、特筆すべきはタイトルにもあるように、こどもの自治への「真の参画(ロジャー・ハート)」に達したミュンヘンの「こども・青少年フォーラム」と高知の「こうちこどもファンド」の圧巻の革新性であろう。「こどものチカラを信じる。最低でも10年は続ける」を合言葉に始まった高知の取組みは、ミュンヘンの事例を参考にしつつ独自の進化を遂げた。その機動力の源は、こどもの秘められていたチカラの開眼と、それに目を見張り喜ぶ大人の幸せな二人三脚である。

「こどもが提案しそれを大人と協働して実現する」。そのためには、こどもが主体的に活躍できる「場」と、「中身」である細やかな調査・実現に向けた議論・関係各所の協力、そして予算(お金)が不可欠である。本書は具体的な事例も紹介しながら、長い活動の中でどう解決してきたかを丁寧に紹介し、大規模なアンケートや議論を経て得た改善点を未来への提言にまとめている。

こうちこどもファンドは、こどもの提案をこども審査員が審査する。本書では何度も、審査側もこどもであることへの不安が杞憂であったという異口同音の感想が紹介されている。「こどもは守り導く存在」というこびりついた無意識(私も含め)が、こどもの翼を縛る多くの現実の中で、こどものチカラを信じてそのエネルギーに未来を委ねる爽快感を、そしてそこには仲間としての大人の協働もまた不可欠であることを、本書は教えてくれる。

(中川千鶴)

 

書名  こどもまちづくりファンド -ミュンヘンから高知へ
著者名 卯月盛夫 畠中洋行
発売日 2023年11月
価格   定価1,800円(税抜)
ISBN  978-4-894-91408-7
版型  A5判
ページ数  184ページ
出版社 萌文社
リンクURL http://www.hobunsya.com/
http://www.hobunsya.com/books/kodomo/kodomofund.pdf(刊行案内)