レッジョ・エミリア市の幼小繋ぎの教育

レッジョ・エミリア市の幼小繋ぎの教育 地域を巻き込む進化系の教育

イタリア幼児教育 実践研究家 石井 希代子

レッジョ・エミリア/教育/地域
イタリアのレッジョエミリア市では、子どもが地域と共に創造的に学ぶ教育が行われている。

レッジョ・エミリア市の教育背景

北イタリアにあるレッジョ・エミリア市は人口17万の小都市である。イタリアは小国家が統合されて一つの国家が誕生した国だが、この地域は民主国家が多かったこともあり共同性がとても発達している。そして、レッジョ・エミリアといえば0〜6歳までの幼児教育が革新的な教育として世界でも有名である。第二次世界大戦後の1945年に、自分たちの子どもに理想の教育を受けさせたいと市民が立ち上がり、ドイツ軍が残していった戦車やトラックなどの鉄屑を売ったお金で、レンガを焼いて手作りでひとつの学校を作ったのが始まりだ。その特徴は子どもの自主性を大切にしたプロジェクト型の学習方法で哲学や心理学がベースにある。1963年には市立の幼児学校にその教育が取り入れられ今に至る。各幼児施設には、プロジェクトを推進するためのアトリエが備えられ、美大を出たアトリエリスタと呼ばれる専門家がいて子どもの表現を支えている。さらにここには自然素材や人工物、色彩画材など子どもたちの表現に必要なさまざまな素材が環境デザインとして準備されている。子どもの創造性を豊かに育むこの教育法は、1991年にアメリカのニューズ・ウィーク誌に取り上げられ世界で一躍有名になった。今も世界中から多くの人が研修に町を訪れる。教育に力を入れる事でインバウンド消費が活性化し、豊かな町が形成されているのだ。

市民が自らレンガを焼いて手作りで理想の学校を作る様子

幼小つなぎの教育の創造

だが、その教育も小学校に上がると市から国の管轄に変わる。イタリアでは小学校は国公立であり、先生が教科書を使って教える旧来のスタイルの授業のため、市立の幼児学校から進んだ子どもの間で問題が生じた。自分の興味から探究して学んで来たプロジェクト型のスタイルから一方的に教えられる授業となり、それがつまらなくて学校生活に馴染めない子どもが出てきたのである。その子どもたちの問題を解決しようと市の教育委員会が立ち上がり、まず、幼児施設と小学校が隣り合わせになった幼少のつなぎの施設を創った。扉一つで行き来が出来、一緒にプロジェクトも行える。また、この小学校の特徴の一つは教科書が無いと言うこと。その代わりに教室内にはさまざまな分野の本が集められ、子どもたちは興味のある事についてグループで探究しながらそれぞれに学んで行くのだ。教師がお仕着せの授業はしないのである。 幼児学校のペダゴジスタと呼ばれる教育学者と小学校の先生とが連携し、子どもの学びを支える独自の進化したやり方を取っている。一人のペダゴジスタは「国は認めているわけではないけれど、私たちは独自にこの教育方針をすすめています。いずれは、中学や高校とも連携していきたい」と自信を持って話していた。

レッジョ・エミリア市独自の条例策定

レッジョ・エミリア市独自の条例策定さらに、2017年3月には0〜14歳の幼児から中学生までをつなぐ教育を確固たるものにするために独自の条例が作られた。教育費に更なる税金を注ぐと言う内容のこの条例も国が定めたものではなく、レッジョ・エミリア市独自のもので、国で定められた法律にプラスアルファのサービスとして行っている。初めに小学校内や市内のいくつかの施設をリノベーションして、プロジェクト型の探究しながら学べるアトリエを作った。次に、幼児教育に長年携わった人材をオフィチーナ・エドゥカティーバと呼ばれる市の教育機関に送り、市内の小学校の先生と連携しながらプロジェクト型の学びを小学校教育に取り入れる試みが行なわれた。2019年には市内の12の小学校と協定を結んでいる。このオフィチーナ・エドゥカティーバは、市内を6つに分けて運営し、現在16ヶ所の施設がある。

 

日本で言うと児童館に近い場ではあるが、その内容は、関係性作りと探究の場であり、学校と連携していて学校内、もしくは隣接した所にあるという事に違いがある。また、市は地元の企業とのコラボも行い、教育の権利を広げている。例えば、小学校とモダンダンスの団体とがコラボを行ない、アトリエで水や光、身体の動きを探究して学んだ内容をコレオグラフィー(身体表現)で表わす試みも行われている。このプロジェクトには発表の場があり、保護者や市民が観客となって必ず子どもたちは称賛される。小さい時から一市民として町の人たちから尊重されているのだ。

 

地域で人材を育て人が町を創る

レッジョ教育の歴史は古く、教育は権利であり責任であるとの考えがしっかりと根底にある。参加型、革新的、学ぶ権利と言う3つの目的に支えられ、さらに創造性を育むアプローチが加わり、より想像性と創造性の豊かな人材が生み出されることになる。何か問題が起こっても、みなで意見を出し合い立ち向かう事で解決につながる斬新なアイデアが次々と生まれる。そのような循環が町にすでに出来ている。

このように町を巻き込んだ教育は、民主的な地域という歴史的背景に支えられ、スローフードの国でもある風土によって時間をかけて熟成され、感情の彩り豊かな人々の情熱と相まって、今もなお進化を続けている。世界でも注目される教育といえよう。

石井 希代子(いとう きよこ)

イタリア幼児教育実践 研究家。北イタリアのレッジョ・エミリア市に2002年から4年間滞在し、レッジョ教育の哲学はじめ歴史や背景、地域の共同性や文化を含め総合研究。レッジョ教育に関する講座や園内研修、現地研修企画オーガナイズも行っている。