本書は、現在、世界的に意識されている旬のテーマSDGsに通ずるものがある。「持続可能な社会と人の暮らし」は、これまでも必要とされ、これからも必要とされていく。なぜなら人間が生きていくためには、何らかの社会環境や自然環境との相互作用がある。本書には、私たちの持続可能な暮らしには何が必要か、生活者レベルで実践するための基礎的な知識や考え方が執筆されている。
例えば冒頭の2頁目にはこのようなことが書いてある。
「地球上に暮らす人の生活は自然環境よりもより身近な社会環境の中でもさまざまな影響を受けている。着るもの、食べるもの、住まうものなど、生活に使う物資は、天然資源をもとにしているが、これらの物資の選択や使用状況は、そこにかかわる人と人との関係や、教育や政治、経済、科学技術などによって影響を受ける。この社会環境をつくっているのは人であり、人の生活や意識、行動によって社会環境は変化する。また、この社会環境の中で行われる生活行動が自然環境に影響を与えている。」
また24頁には、「人生100年時代の生活は、個人の自覚や家族の助け合いによる自助だけでは成り立たない。長い人生の過程では、自助では乗り越え難いさまざまなリスクに遭遇する。それに備えるには、生活保障という援助システムが必要である。」とある。
このどちらの文章にも、この社会がどのような枠組みで動いており、子ども環境がどのようにあるべきか、その方向を考える大きなヒントが含まれている。本書には「個人、家族・家庭生活やコミュニティのウェルビーイングを向上させることが社会の持続可能性を高める」という家政学のエッセンスが点在しており、このバトンを、こども環境学の世界がどのように受け取り展開していくのかが今後の可能性として興味深い。アサリとハマグリが両方味わえるのは「種の多様性」によるものだそうで、ではその生物多様性の保全に、こども環境学はどのように関わっていけるだろうか。また衣服を長持ちさせることや、食料自給率が低いこと、伝統的な日本食、安全に快適に住むための住環境についてなど、私たちが日々生存することと持続可能性について、こども環境学としてはどのようにアプローチしていけるだろうか。読者が自分自身の携わる子どもの様々なあり方に、よりよい一歩を踏み出せるような内容となっている。まずはアサリとハマグリの写真のページを探してみることから始めてほしい。
(金沢大学 花輪由樹)
書名 持続可能な社会と人の暮らし
著者名 持続可能な生活研究会(【編著】阿部栄子、池田彩子、小川宣子、工藤由貴子、重川純子、守隨香、杉山久仁子、鈴木惠美子、多屋淑子、都築和代、宮野道雄 /【共著】石原健吾、大石美佳、小倉育代、金澤伸浩、熊谷優子、佐藤裕紀子、高松淳、南基泰)
発売日 2024年2月
価格 定価2,310円(税込)
ISBN 978-4-767-96522-2
版型 A5判
ページ数 192ページ
出版社 建帛社
リンクURL https://www.kenpakusha.co.jp/np/isbn/9784767965222/