バトンをつなぐ 社会の中に遊びの力を開放する隙間を

 

千葉大学dri副センター長/教授  原 寛道

キーワード:遊べないこどもの状態をなくす/街のすべてがワクワクに満ちる/流動的な遊び

こどもの遊び環境デザインの視点

私は、工学の環境デザインという専門領域に属しながら、こどもの遊びに関わる取組を進めています。公園遊具のデザインなどはわかりやすい例です(写真1)。環境デザインとは、人と人を取り巻く環境との相互関係を対象にし、工学的に人々の暮らしをよりよくするものです。こどもの遊び環境の課題は、人と環境の相互関係のよりよい状況を考える際に、本質的な課題であり、今後の人々の暮らしを向上させるために、最優先に検討すべき課題だと考えています。

写真1:移動式公園遊具のデザイン開発

遊べないこどもの環境を変えていく

こどもの遊び環境に関する多くの取組が、遊べるこどもの能力をさらに高めることを目的に計画されています。休日に各所で行われているこどものためのワークショップや、商業施設に付属するプレイエリアなど、そこではこどもの笑顔がキラキラ輝き、こどもの遊ぶエネルギーは素晴らしいと賛嘆され、そのための計画は大成功だと評価されます。しかし、日常のこどもの遊びを見ると、だらだらとして何の輝きもなく、このまま無為時間を過ごすなら何か溌剌とさせたいと大人は思いついてしまいます。結果、大人が考える良い遊びを彼らに与えてしまっています。
スウェーデンのマルメ大学総合病院にある院内保育コレベッケンは、重度に障害があるこどもも、そうでないこどもと一緒に保育をしています。障害があるこども同士が持てる能力を存分に活かし遊んでいる様子を見ました(写真2)。遊べないこどもはいません。しかし、遊べない「こどもの環境」を大人は都市化の中で与えすぎているのかもしれません。キラキラとしたこどもの遊びの一断面のみが評価されないことを願います。

写真2:障害があるこども2人による遊び

あそび大学の取組

千葉大学は、2021年4月より、墨田区に千葉大学墨田サテライトキャンパスを開設しました。1階は地域に開かれ、様々な取り組みを実験しています。ここで、2021年12月から毎月1回、地域のこどもの遊びに取り組む3つの団体(SSK / CFA / SDL)と協力し合い「あそび大学」という取組を進めています(写真3)。夏休みには1週間連続して行うなど、毎回100名以上が参加し、累計で4000人近いこどもが参加しています。墨田区は都内で2番目に町工場が多い一方、農業や、大きな緑地帯がなく自然遊びを行う空間が不足しています。そこで「あそび大学」では町工場から出る、布・紙・ウレタン・木材・樹脂などの端材を集め、これまではゴミとして無用なものと思われていた素材を、町工場から提供頂き遊んでいます。ここでは、遊ぶも遊ばないも自由、ただ、ワクワクする環境をつくることを目指しています。

写真3:あそび大学で町工場の素材で遊ぶ

 

原 寛道(はら ひろみち)

仙田満氏が創設した(株)環境デザイン研究所にて、1994年よりこどもの遊び環境のデザインを実践。2000年に(有)原デザイン設計室を設立し、都市公園の遊具シリーズのデザイン開発。2003年より出身校である千葉大学工学部デザイン学科にて教育研究に携わり、現在、千葉大学dri副センター長/教授。