特集 観光地のホテルが、子どもが安心して避難できる二次避難所に

ホテル「LINNAS Kanazawa」の震災時の取り組み

Linnas Design 松下 秋裕

①能登地震で被災した子供のいる家庭の受け入れ 

②「みんなのこども部屋」が被災した子供たちの心のケアに

③二次避難所として宿泊施設ができること

能登地震で被災した子どものいる家庭の受け入れ

私たちは、金沢市の有名な観光地、近江町市場のすぐ近くで宿泊施設「LINNAS Kanazawa」を運営しています。国内外から来られた観光客の方が宿泊していて、外国語が多く飛び交っているようなホテルです。

年末年始は観光客が少なくなる閑散期で、普段よりは落ち着いて過ごしていました。そんな中、1月1日に石川県で最大震度7を観測する「能登半島地震」が発生。発生直後、金沢市内の民間ホテルで二次避難所として被災者を受け入れる動きが始まり、私たちもその動きに賛同し、特に子どものいるご家庭を優先的に受け入れる方針にしました。一次避難所では、高齢者や体調不良の方もいらっしゃるため、子どもがいると避難をためらうケースも少なくありません。また、乳幼児にはミルクやおむつが必要で、それに付随して電気ケトルや汚れたものを洗うための水も必須です。

「LINNAS Kanazawa」にはフィットネスルームやシェアキッチンが備わっており、子どもたちが遊んだりご両親が料理したりできるため、避難生活におけるそうしたニーズに応えられると考えました。1月4日から受け入れを開始し、最大約80名が避難していました。

「みんなのこども部屋」が被災した子どもたちの心のケアに

運営開始から約1週間後、金沢市内の社団法人「第3職員室」と協力して「みんなのこども部屋」を開設しました。この部屋は、避難している子どもたちが自由に遊べるスペースで、それまでほとんど自室から出てこなかった子も顔を出すようになり驚きました。子どもたちは、好きなおもちゃで遊んだり、ボランティアの方に折り紙の作り方を教わったりして、朝食後は「何時から遊べる?」と楽しみにしている様子が伝わってきました。

元気に遊んでいる中で、ふと「あの子元気かな」「また大きな地震来たらどうする?」と話す子もおり、不安や心配が垣間見えることがありました。ご両親も一息つく時間ができ、他の避難者の方やボランティアの保育士さんと話す中で心配事を相談できる貴重な時間になっていたと思います。

ストレスのかかる状況が続く中で、子どもたちが安心して遊べる場を提供し、避難者同士の情報共有や心のケアができる場として機能していました。

子供が遊んでいる様子

二次避難所として宿泊施設ができること

震災時は個人だけではなく、各企業にも支援の輪が広がります。私たち宿泊施設は、避難者に安心して寝られる場所を提供し、子どもたちには学校や保育園のような日常に近い環境をつくることで、心理的ストレスを軽減するサポートができたのではないかと考えています。また、普段から地域との繋がりを大切にしていたため、近隣の飲食店の方々やSNSを通じて、多くの食料や物資を受け入れ、避難者の生活を支えることができました。
このように、各宿泊施設がそれぞれの特徴を生かした二次避難所として機能することで、体育館などの一次避難所の環境では過ごしづらい方でも安心して避難することができ、長引く避難生活の負担を少しでも減らす一助になると思います。

たくさんの支援物資

 

松下 秋裕(まつした あきひろ)

1990年東京生まれ埼玉育ち。株式会社Linnas Design 代表取締役。東京から金沢へ移住し、翌年、金沢市尾張町にライフスタイルホテル「LINNAS Kanazawa」を開業した。ホテルという場の運営を通じて暮らしの豊かさや生き方、働き方を様々な角度から提案する。