【中東】エジプトの主に保育園にみられる遊び場環境の一例

エジプトの主に保育園の環境について、その一例を紹介します。

聖ヶ丘保育専門学校 清水かおり

エジプト/保育園/遊び場/ブランコ/人形劇

エジプトの乳幼児教育

私は2011年から2年間、青年海外協力隊(現JICA海外協力隊)の幼児教育隊員としてエジプトで活動をしていました。その活動の一つに、様々な保育園への巡回がありました。約10年が経過しておりますが、中東の保育現場をぜひ知っていただきたく、その時のこどもたちの様子や環境を写真と共に、皆さんにお伝えしたいと思います。

まず前提として、エジプトには保育士の資格はありません。よって、誰でも今日から保育者になることができます。保育時間は毎日昼食前までです。一方で、幼稚園教諭になるためには大学で学ぶ必要があります。しかし幼稚園教諭の枠は少なく、その枠が空くまで保育園で働く選択をする方もいました。次の2枚の写真のように保育園で出会う生き生きとした保育者は学位取得者であることが多く、時が来れば退職してしまうのです。これが10年前の状況です。

エジプトの保育園といえば・・・ 特徴的な環境の一例

はじめにエジプトの保育環境を象徴する特徴的な環境から見ていきたいと思います。私が訪問した多くの園でよく見られた遊具は、ブランコやシーソーです。保育園を訪れると、まず「モルギーハ(アラビア語エジプト方言でブランコやシーソー)はここにあるよ」と園側が紹介してくれました。ブランコを置いていることを重要視しているようです。さらに「園庭遊び」=「モルギーハ」といっても過言ではないくらいなのです。園庭に出ると、こどもたちは何の迷いもなくモルギーハに乗りますし、保育者も必ずそれらに乗るように声をかけます。初めに紹介した写真にある保育者と、あと何名がブランコやシーソー以外で遊んでいたのか、それくらい自由な園庭遊びは珍しいことでした。走り回ったり、土や砂を触ったり、この国では自由な遊びはあまり好まれていないのでしょう。それでもこどもたちは外に出ると大喜びでした。

ここで驚くことに、園庭だけではなく室内にもブランコやシーソーが置かれているのです。例え空き部屋のような広いスペースがあったとしても、積み木やミニカー、絵本などを楽しむ訳ではなく、大抵ブランコやシーソーで遊ぶ場となっていました。暑い日が長く続くからでしょうか。室内にブランコを設置するとは正直驚きました。

 次の特徴的な環境は、人形劇の舞台です。手作りの舞台を多く見ました。エジプトの方はアドリブや抑揚のつけ方など演じ方がとても上手です。人形劇は、誰もが感情を素直に表現し合うエジプトの方にピッタリな保育教材てす。

これらをとっても、エジプトの保育環境の独特さを感じられたのではないでしょうか。ここはエジプトですから、独自の考え方ややり方、つまり価値観を尊重することは当然のことです。しかし受け入れがたい現実も沢山目にしました。

保育園の室内の環境と過ごし方

では、室内の環境と過ごし方を見ていきます。私が訪問した園のこどもたちは、概ね座って過ごしていました。家庭から持参したパンやスナックなどを自由に食べたり、テレビで放映されているコーラン(イスラム教の聖典)を視聴したりと、園での過ごし方は日本とは全く異なるものです。棚に玩具が置かれていることもありましたが自由には触れることはできず、飾りのようでした。机と椅子の配置の仕方も独特で、壁際に設置されていることが多く、出入りするには一度机に上がらなければなりません。中央はフリースペースになっています。何とも不思議な光景でした。

一方で、時には床に座って遊ぶこどもの姿がある園にも遭遇しました。玩具は少ないですが、こども自身が考えて遊んでいる姿を見るととても安心したことを思い出します。

続いて乳児の保育室の様子です。乳児室には、沢山のベッドが置かれていました。時には二人一緒のこともあります。園にいる時間の殆どを、そして体が随分と大きくなってからもベッドの上で過ごしているようでした。

遊びの提案

このように遊びの自由度が限られている傾向があったため、遊びの提案をよくしていました。ボトルキャップやカップなどの身近な廃材を使った手作り玩具、これはあまり受け入れられませんでした。しかし日本で一般的なスナップボタンつなぎは好評でした。手芸用品は割と手に入りましたし、保育者間で雑談をしながらつくり、少しずつ数が増えていきました。思い思いに繋げたり曲げたりして次々に遊びをつくり出す真剣なこどもの姿は、保育者の意欲にも繋がったのではないかと思います。

エジプトのこどもの遊び場

保育園以外では、公園や図書館がこどもの遊び場環境として地域にありました。ただ十分な活用はされていないようでした。誰も居ない公園は殺風景でしたし、図書館に至っては、存在を知らない人もいました。子ども向けの本も揃っていますし、開放的で清潔感もありました。何かがミスマッチなのでしょう。

有料の公園、スポーツクラブ、そして私立の保育園であれば、これまでにお伝えした環境より整った子どもの遊び場が保障されているのかもしれません。しかし私が見てきた誰もが通えるような遊び場は、以上のような環境でした。

大切なこと

今回私の知る範囲でのエジプトのこどもの環境をお伝えする機会をいただいたにもかかわらず、どちらかというと残念な印象が残った文面になってしまったかもしれません。しかし、この国には家族の温かさや人間味溢れた人と人の繋がりがあります。その心地良さと、時には煩わしさを痛いほど感じました。また、エジプトの方はユーモアたっぷりで、突っ込みどころも満載です。決して可哀想な保育環境という印象で終わって欲しくないのです。ですのでぜひこの記事を、今度はご自分なりに突っ込みを入れながらもう一度読んでいただけますと幸いです。きっとエジプトについてもっと知りたくなるはずです。

このような機会をいただきましたことに、心より感謝申し上げます。

清水 かおり(しみず かおり)

神奈川県出身。白梅学園大学大学院修士課程修了(子ども学)。聖ヶ丘保育専門学校専任教員。幼稚園教諭と保育士経験を経て、2011年から2013年まで、青年海外協力隊(現JICA海外協力隊)幼児教育隊員として、エジプトのスエズ運河西岸に位置するイスマイリアで活動。