地域避難所の子どもの居場所づくり/子どもの権利/災害派遣子ども支援チーム
避難所の子どもの居場所づくりが対峙する課題とは?
能登半島地震に伴う避難所での子どもの居場所づくり
2024年1月1日16時10分、日本の能登半島地下16kmで発生したマグニチュード7.6の地震は、石川県を中心に大きな被害をもたらしました。発災直後から行政や地元の支援者、県外の支援団体が連携し、被災地や避難所においてさまざまな子どもの居場所づくりがなされました。
災害時の子どもの居場所づくりで大切なことは、自然災害等によって「非日常」となってしまった子どもたちの生活を「日常」に戻していくことです。石川県の1.5次避難所内に立ち上げられた「子どもの遊び場」もそのような取り組みの一つです。これは、内閣府からの依頼により、YMCAやセーブ・ザ・チルドレン・ジャパンの協力のもと、地元の保育者や学童保育指導員とともに運営した子どもの居場所です。現在も場を残していますが、支援者がいた2月末までの期間で、延べ160名弱の子どもたちが遊びました。
子どもの声を聴いてつくる遊び場
1月8日、石川県が準備した1.5次避難所にはテントが敷き詰められていました。情報を聞きつけた避難者が入所されるなか、そのテントの配置を変更しながら子どもの居場所を設置するスペースを確保しました。また、避難者のなかには子どもたちもいたため、一緒に遊び場をつくりました。
遊び場には、そこに集う子どもたちと支援者によって名前が付けられました。ロビーにつくった身体を動かせる遊び場は「ともだちいっぱいひろば」と呼ばれ、真冬の石川県にもかかわらずシャツ1枚になってドッヂボールをする子どもたちの姿が見られました。また、アリーナ内の遊び場は「おもちゃいっぱいひろば」と呼ばれ、毎朝支援に入ると昨晩子どもたちが遊んだ形跡が残っていました。
1.5次避難所とは、2次避難所への移行を整える場であるため、その特性から長く滞在することを想定していません。しかし、子どもたちとともに居場所づくりを行ったことで、市内の2次避難所に移動した子どもたちが遊びに来ることもあるなど、子どもたちにとって居心地の良い場になっていたように思います。
避難所の子どもの居場所づくりで生じた課題
しかし、避難所での子どもの居場所づくりは容易ではありませんでした。避難所に集う多様な支援者の間には、必ずしも子どもの居場所の必要性が理解されているわけではありません。
例えば、ある地域のDMAT(Disaster Medical Assistance Team災害派遣医療チーム)の方からは、「子どもの遊びですか?こっちは命を預かっているので・・・」という心無い言葉とともに、多目的室に子どもたちとつくった居場所を移動するよう要求されました。結果として、ロビーに大きなスペースを確保できたものの、医療や高齢者福祉と比較して、子どもの遊びや生活は後回しにされやすいものであることを実感しました。
誰がどのように運営するのか?
今日、災害時の子どもの居場所づくりにおける一番の課題はその運営です。指針には、災害時の子どもの居場所の必要性は示されているものの、「その場を運営するのは誰なのか?」ということはどこにも示されていません。それゆえ、他でもない地元の方々が、被災地や避難所の居場所を運営し、実際に子どもの遊びや生活の支援にあたることになります。
しかし、支援を担える方は必ずしも多くはありません。被災地においては、支援者の多くはその方自身が避難所で生活する被災者です。また、被災地周辺の地域においても、2次避難してきた子どもたちを受け入れることとなり、避難所の子どもの居場所も担えるほどの余裕があるとは言えないでしょう。
つまり、緊急時の医療の専門チームがあるように、緊急時に子どもの遊び支援に入ることができるDMATの子ども支援版「災害派遣子ども支援チームDisaster Childcare Team」が必要です。いずれは地元の支援者に引き継がなければならないとしても、緊急時や応急対応期に対応できる子ども支援の専門チームDCCATを派遣できるよう、平時から多様な子ども支援にかかわる者同士が日常的に専門的な研修を受ける体制が求められます。
鈴木 瞬(すずき しゅん)
金沢大学人間社会研究域学校教育系准教授、博士(教育学)
教育とケアの接続による「共生」をキーワードに、放課後の子どもたちの遊びと生活を保障するシステムとそこでの大人と子どものコミュニケーションのあり様について研究している。また近年では、災害時の子ども支援についても実践的に取り組んでいる。日本学童保育学会理事。公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン支援業務アドバイザー。
著書に、『災害時の学童保育のブリコラージュー「まびひょっこりクラブ」がつなぐ未来へのバトンー』(編著・クリエイツかもがわ)『学童保育指導員になる、ということ。―子どももおとなも育つ放課後―』(編著・かもがわ出版)『子どもの放課後支援の社会学』(単著・学文社)等。