フィンランドにおける小学生の遊び環境

フィンランドでは子どもの遊びがどのように捉えられているでしょうか?

University of Turku & University of Regensburg 教育学部修士課程 池田 文子

フィンランド/小学生/地域/外遊び

私はフィンランドの大学院で子どもの遊び環境について研究しています。二人の子どもと夫とともに、2023年夏にフィンランドへ引っ越してきました。
本記事では、小学生の我が子の様子と、わたし自身のフィンランド小学校でのインターンシップ経験から、フィンランドの小学生が過ごす環境についてお伝えいたします。

フィンランドの小学生の放課後

フィンランドでは日本と同じかそれ以上に、街の中を子どもたちだけで歩いている様子を見かけます。通学はバスや自転車、キックボードなど、自由な方法で通うことができます。フィンランドは緯度が高いため、冬はたいへん暗くなります。子どもたちは反射板を身につけて真っ暗な中を登校していきます。

フィンランドに引っ越したばかりの頃に、いろいろな人に子どもたちの放課後の過ごし方について聞いてみました。家庭次第ではありますが、「基本的に小学生に上がったら、子どもたちだけで遊んだり外出したりして問題ない」という返答がありました。低学年の子どもは、学童という選択肢があり、放課後のクラブ活動や習い事なども行っています。日本と同様に、フィンランドの小学生も放課後はなかなか忙しいのが現状のようです。

とはいえ、子どもが地域の中で自由に過ごせることが当たり前であることは、日本もフィンランドも大切にしてほしいと強く感じています。

 

フィンランドの小学生は真っ暗な雪道を登校する

小学校の休み時間

学校に目を向けてみましょう。
小学校は各授業時間の間に15分の休み時間が設けられています。子どもたちは休み時間に外に出て遊ぶように言われます。雨だろうが雪だろうが氷点下だろうが、レインコートや防寒着を着て、必ず外に出るのです。校舎のドアは締まり、休み時間には室内に入れなくなり、担当の大人が校庭に出て子どもたちが遊ぶ様子を見守っています。日本では、教室は先生にとっても子どもたちにとっても、いつでも戻ってこれる居場所のようなものです。日本の子どもたちは長い休み時間の中に外で遊ぶことを勧められますが、教室で過ごすこともできます。一方、10分程度の短い休み時間の場合は、日本の大きな校舎では外に出ている余裕はない実情があります。さらに日本では、子どもたちと一緒に遊ぶ先生たちの姿もよく見かけます。フィンランドでは一緒に遊ぶというよりも、子どもたちが遊んでいるのを先生たちが見守っているという雰囲気があります。この休み時間の過ごし方に関して、日本とは考え方が違うようでしたので、教員や教員志望の学生に聞いたところ、以下のような答えが返ってきました。

・子どもにとって、外で遊んだり動いたりすることが非常に重要である。
・しっかり遊んだ後は、その後の学習にも集中できる
・他の学年や違うクラスの子どもと関わりを持つことができる
・体を動かす時間を確保できる
・先生にとっても、次の授業の準備をしたり、休憩したりすることができる

手前の蛍光ベストを着ている人が見守り担当の先生
この日は今年初めての雪 

余暇や子どもの遊びを重視しているフィンランドらしい考え方だと感じました。

その一方で、日本の学校のようにいつでも戻れる教室があるというのは、子どもにとっては安心材料になると思います。やはりフィンランドでも、教室で過ごしたいと感じる子どももいるようで、週1の室内休み時間を設けている学校もありました。私がインターンシップをした小学校では、クラスの代表が集まる会議で、室内で過ごす休み時間を取り入れることを提案している子どもがいました。先生たちもその件に関しては今後話し合うと約束しており、子どもの意見が学校運営に反映される仕組みがあることは、私たちが学ぶべき点であると感じました。

フィンランドでは、どんな天候でも子どもは外で遊ぶということが、幼児教育の段階から徹底されています。小さい子どもたちが雨の園庭で、オーバーオールタイプのレインコートを着て泥だらけになって遊んでいる様子をよく見かけます。また、フィンランドには「悪い天気などない、合わない服装があるだけ」という言葉があります。どのような天候や状況であっても、自分たちの工夫次第で楽しむことができるという考え方が、厳しい自然環境にあって豊かに余暇を過ごす秘訣のように感じます。

ホッケーは小学生にも大人気のスポーツ

自然の中で、学び、遊ぶ

さて、そんな子どもたちが遊んでいる校庭ですが、我が子が通っている学校の校庭は非常に魅力的です。校庭の周りを雑木林が取り囲んでおり、地面はデコボコ、木がたくさん生えていて、大きな岩もそのまま残されています。秋には落ち葉でふかふかになり、冬には雪に覆われた中で遊びます。フィンランドでは森の中で行うフリスビーゴルフというスポーツが盛んですが、そのゴールも雑木林に設置されており、遊びたい子どもは休み時間に自分のフリスビーで遊んでいます。
大きな葉っぱを集めて遊んでいる
その雑木林は学校の敷地のようですが、境界がはっきりしておらず、地域の人も犬の散歩をしたり、フリスビーゴルフをしたりしています。大きな斜面があるため、冬の休日には地元の子どもたちがソリ遊びをしに集まってきます。
地元の森の中
誰もが森で遊んだり、ベリーやきのこを摘んだりしても良い
小さい頃からきのこ摘みやベリー摘みに親しんでいる

学校の授業でも、小学生は環境学(日本の理科や地理に相当する科目)で季節の動植物やきのこの名前を覚えたり、体育で森の中でのオリエンテーリングを楽しんだり、自然との関わりが多いです。

また、休みの日には森の中で焚き火をしてソーセージを焼いたり、春にはベリー摘み、秋にはきのこ狩りで近所の森に出かけたりします。フィンランドでは自然が生活のすぐそばにあり、子どもたちもこのような豊かな環境に親しみながら育っていきます。これはJokamiehen oikeudet(自然享受権)*1と呼ばれ、ルールの範囲内で誰もが大自然の豊かさを楽しんでよいことが定められています。

*1 Jokamiehen oikeudet(自然享受権)  参考ホームページ

BBQスペース
たくさんの家族連れが訪れて時間を過ごす。子どもたちは周りの森で遊んでいる

屋内の子ども環境

ここまでは外遊びの話をしてきましたが、屋内の環境にも目を向けてみたいと思います。

フィンランドは福祉国家として有名ですが、公共図書館をおいてもその一端を見ることができます。図書館は文化を育む地域の要となっており、本だけでなくマンガやゲームソフト、楽器、ミシン、3Dプリンターなどを借りたり使ったりすることができます。また地域の居場所としても機能しており、居心地のよいソファーやボードゲーム、編み物、お絵かきコーナー、ジグソーパズルなどが置かれていて、いつでも遊ぶことができます。小さい子たちだけでなく、中高生もゆっくり過ごしている姿を見かけます。フィンランドの冬は日照時間が極端に少なくなり気温も下がるため、思うように外で遊べなくなってしまいます。私の住んでいる地域では、地域の体育館が週末に開放され、思い切り体を動かすことができます。

知らない者同士で一緒にジグソーパズルで遊ぶ

体育館が開放されて、誰でも自由に遊ぶことができる

最後に

「フィンランドの教育はすごいらしい」というのは、日本でも有名な話です。しかし、実際にこちらで生活し学んでみると、フィンランドの人や社会が、「人が育つ」ということを大切にし、学校だけでなく社会全体で子どもを見守っているということを強く感じます。教育制度や国際調査の点数ばかり話題に上がりがちですが、その国に住む人の考え方や生き方からも、フィンランドの子ども環境の秘密を垣間見ることができます。子どもたちが育つ環境を豊かにしていくために、私たちはまだまだ学ぶことがあるのではないかと感じています。

池田 文子(いけだ あやこ)

フィンランド在住
University of Turku(フィンランド)&University of Regensburg(ドイツ) 教育学部修士課程在学中
夫と小学生の子ども二人とともに、フィンランドへ。子どもが豊かに遊び育つ社会について学んでいます。
元小学校教員・フィンランド小学校でのインターンシップを経験。
教育団体Growing-Ups for Children 副代表