植草学園大学 久留島 太郎

私はフィンランドの大学院で子どもの遊び環境について研究しています。二人の子どもと夫とともに、2023年夏にフィンランドへ引っ越してきました。
本記事では、小学生の我が子の様子と、わたし自身のフィンランド小学校でのインターンシップ経験から、フィンランドの小学生が過ごす環境についてお伝えいたします。
ウガンダ北部の都市グル(Gulu)における保育・教育
ウガンダは東アフリカに位置する共和制国家で、自然に恵まれ、多様な文化をもつ国です。アフリカで最も多くの難民を受け入れている国の一つでもあり、「オープンドアポリシー」に基づく難民政策は国際的にも高く評価されています。しかし、1962年の独立以降、独裁政権や内戦など苦難の歴史を経て、現在の復興期に至っています。
ウガンダ北部にある都市グル(Gulu)は、首都カンパラから約360kmの場所に位置するグル県の県都です。1980年代から2006年まで続いた長期的な紛争の影響で、子どもたちは誘拐、強制徴用、暴力に晒され、保育・教育の機会は著しく制限されていました。そのため、幼児教育や保育といった概念は、生存を優先する状況下では重視されず、安全な遊び場や遊びの機会も大きく失われていました。紛争の終結後、グルでは復興が進められ、教育システムの再建が重要な課題とされていますが、人材不足、経済的困難、心理的トラウマなど、幼児教育・保育の発展にはなお多くの課題が残されています。
ウガンダ政府は、子どもの「生存・発達・保護・参加」という基本的権利を保障するため、2016年にNational Integrated Early Childhood Development(NIECD)政策を承認しました。さらに、「Learning Framework for Early Childhood Development」というカリキュラム指針を策定し、幼児教育の質の向上を図っています。しかしその普及と実施には、民間施設への依存、教員の資質向上、地域による施設の質の格差といった課題が存在します。これらはアフリカ全体に共通する構造的な課題でもあります。

幼児教育施設での子どもたちの遊び環境
筆者は2018年と2019年にグルを訪問し、私立の幼児教育施設「Saint Mauritz Nursery School」を含む複数の園で参与観察を行いました。これらの施設では、おおむね朝8時から12時30分までのスケジュールで保育が行われており、午後は家庭や地域で過ごすのが日常の生活リズムとなっています。
子どもたちが主体的に遊ぶ姿が見られたのは、午前10時から11時の「ブレイクタイム」でした。この時間帯には、園庭で固定遊具や廃タイヤ、木の枝、半分に切ったポリタンクなどを用いて、さまざまな遊びを繰り広げていました。



特筆すべきは、この施設の園庭の一角に、砂や石、ブロックといった瓦礫が積まれたスペースが設けられていた点です。子どもたちはそこから素材を運び出し、砂と瓦礫を用いてイメージをかたちにしていく構成遊びに夢中になっていました。半分に切られたポリタンクに石を入れて運び、それを家や建物に見立てて積み上げる中で、友だちとの対話や協同が見られました。石をどう積めば倒れないか、どんなかたちになるかを試行錯誤する様子は、子どもたちの創造性や探究心を強く感じさせるものでした。なかには、かまどを模してパンを焼くようなごっこ遊びに発展する例もありました。ブレイクタイムは短時間ですが、作られた作品はその後も園庭に残されており、子どもたちの表現が一過性のものでないことを示していました。



遊びと教育に対する認識のギャップ
参与観察からは、「遊びを通した教育」という考え方が、現地で必ずしも十分に共有されていないことが読み取れました。保護者や保育者のあいだでも、遊びに対する認識には幅があり、「学習後の息抜き」として位置づける視点と、「遊びそのものが学びである」ととらえる視点が共存している印象を受けました。
ある保護者は「内戦中に自分たちは教育を受けられなかった。だからこそ、子どもたちには学校教育でしっかりと知識と技能を身につけてほしい」と語り、幼児期においても読み書き算数的な学習を強く望む声もありました。
それでも逞しく遊ぶ子どもたち
一方で、子どもたちは家事や水くみ、薪運びといった仕事の合間にも活発に遊んでいます。写真に写っているのは、ボロ布などを集めて作られた手作りのボールです。こうしたボールを使って夢中でサッカーに興じる子どもたちの姿を、あちこちで見かけました。
ウガンダ北部グルの子どもたちの遊びには、身の回りの廃材や素材を使いこなす「ブリコラージュ的遊び」が数多く見られます。こうした遊びは、創造性を育むだけでなく、環境への適応力や問題解決力にもつながっており、子どもたちの生活の中に深く根ざしています。
年少人口(0〜14歳)の割合が約48.2%と非常に高いウガンダにおいて、こうした「子どもと遊び」の姿や「教育における遊びの認識」などについて、今後も注目していきたいと考えています。
参考文献
- LEARNING FRAMEWORK FOR EARLY CHILDHOOD DEVELOPMENT(2005).
https://ncdc.go.ug/wp-content/uploads/2024/02/ECD_FRamework.pdf
- Uganda Bureau of Statistics(2024).
https://www.ubos.org/uganda-profile/?utm_source=chatgpt.com
- UNICEF (2007). The State of the World’s Children 2007: Women and Children in Conflict and Post-Conflict.
久留島 太郎(くるしま たろう)
植草学園大学発達教育学部教授。専門は保育学。幼稚園、小学校の教員、認定こども園の園長などを経て現職。社会福祉法人房総双葉学園理事。