【B&C】日本手話がおしえてくれること

『日本手話がおしえてくれること』は、ろう者の生活や文化を生き生きと描いている。

本書は、日本手話を単なる「補助的手段」とみなすのではなく、ろう者のあいだで自然に育まれてきた一つの言語であることを改めて教えてくれる。手の形や位置、動き、さらには口元のジェスチャーまでが意味を担う点は、言語というものの奥深さを改めて実感させる。

敬意を示す際に独特の表現方法が存在することや、指文字を使って記憶を助ける工夫といった具体的なエピソードには、聴者にとって新鮮な発見が多い。さらに、生活空間のなかで相互に存在を感じ合えるよう工夫されたデフスペースのあり方や、動画を用いた記録方法など、ろう者の暮らしに根づいた知恵も取り上げられる。

一方で、見かけだけの「手話ダンス」の不自然さを指摘し、形式的な理解にとどまらず、真の相互理解のあり方を問いかける点も重要である。読み進めるうちに、異なる文化に触れたかのような新鮮さとともに、異文化理解やコミュニケーションの本質について深く考えさせられる。ろう者として生まれた子どもやその家族に「おめでとう」と祝福し合える社会やコミュニティのあり方を考えさせられる。

(東京未来大学こども心理学部 教授 藤後悦子)

 

書名 日本手話がおしえてくれること ろう者から学ぶための65の疑問
著者名 NPO法人バイリンガル・バイカルチュラルろう教育センター 編
榧陽子 著
岡典栄 著
発売日 2025年8月
価格  定価1,800円(税抜)
ISBN  978-4-469-29120-9
版型  四六判
ページ数 176ページ
出版社 大修館書店
リンクURL https://www.taishukan.co.jp/book/b10140198.html