こどもの遊びと意見形成支援

政策への意見表明のその前に

NPO法人わかもののまち代表理事/株式会社C&Yパートナーズ代表取締役  土肥潤也

キーワード:こども基本法/意見表明権/主体性/自発性/社会参画/合意形成

こどもの遊びと意見形成支援

近年、こども基本法の施行により、こどもの意見反映が法的に義務化されました。学校運営、まちづくり、政策決定など、様々な場面でこどもの声を聴くことが求められています。しかし、大人が「意見を聞かせて」と問いかけても、多くのこどもは戸惑いを見せます。「分からない」「特にない」という反応が返ってくることも少なくありません。これは決してこどもに意見がないからではありません。日常的に自分の声を発する機会、そして何より、その声が真剣に聴かれ、尊重される経験が圧倒的に不足しているためです。

こうした課題の根本的な解決策として注目すべきは、こども期の「遊び」です。遊びは、こどもにとって最も主体的で自発的な活動であり、自然な意見表明と合意形成の場となります。砂場での建造物作りでは「もっと高くしたい」「こっちに道を作ろう」という創造的提案が生まれ、鬼ごっこでは「ルールを変えよう」「それは不公平だ」という活発な意見交換が展開されます。集団での積み木遊びでは、限られた材料をどう配分するか、どんな構造物を作るかについて、自然に民主的な話し合いが生まれます。

遊びの中では、こどもは自分の考えを言葉にし、他者と交渉し、時には対立し、そして最終的に合意形成を図ります。この一連のプロセスこそが、意見形成と表現の基礎力を育みます。大人が一方的に教え込む「意見の言い方」ではなく、こども自身が主導する遊びの中で、体験を通して自然に身につけていく生きた力です。

重要なのは、大人がこの遊びのプロセスを見守り、環境を整備することです。こどもたちの意見に耳を傾け、時には仲裁役となりながら、こどもたちの自主性を尊重する姿勢が求められます。また、多様な遊び環境を整備し、異年齢交流や多文化交流の機会を作ることで、より豊かな意見交換の場を提供できます。

現代社会では、構造化された活動や学習が重視され、自由な遊び時間が削減される傾向にあります。しかし、将来的にこどもが民主的社会の一員として積極的に参画できる基盤を築くためには、まず「遊び」を大切にする環境づくりが不可欠です。意見を持ち、それを適切に表現し、他者と協働できるこどもを育てるために、遊びを通じた意見形成支援の重要性を社会全体で再認識する必要があります。

土肥潤也(どひ じゅんや)

NPO法人わかもののまち代表理事/株式会社C&Yパートナーズ代表取締役。1995年、静岡県焼津市生まれ。早稲田大学社会科学研究科修士課程修了、修士(社会科学)。2015年に、NPO法人わかもののまちを設立。2020年に、一般社団法人トリナスを共同創業、現在は代表理事。こども家庭庁こども家庭審議会委員、こども・若者参画及び意見反映専門委員会委員長。