特集 縮減時代における公共施設再編と学校の役割

千葉工業大学創造工学部デザイン科学科 教授 倉斗綾子

公共施設再編/学校建築/まちづくり

縮減時代の公共施設再編のはじまり

1999年の「地方分権一括法」施行に伴う「合併特例法」の改正により進んだ「平成の大合併」。これを契機とした全国的な自治体規模の再編によって、高度経済成長期以降に整備されてきた公共施設の重複・過剰整備の実態が明らかになった。2000年代に入ると、少子化や就労人口の減少による税収の落ち込みといった課題が具体性を帯び、従来のワンセット主義*1を見直し、次世代への負担軽減と施設マネジメントに意欲を示す首長も現れるようになった。施設整備に課題意識を持った自治体では独自の公共施設マネジメントが始まり、埼玉県宮代町は市町村合併を行わず早期から自律的に統廃合を推進。神奈川県秦野市では庁内に専任体制を整備し、独自計画づくりを先行して実施した。これらの先進自治体における公共施設再編は、それぞれの特性を活かしながら、地域らしさを次世代に継承する方策を丁寧に模索するものであった。

「学校」という公共施設

学校施設を研究対象としてきた筆者は、2008年に始まった秦野市の公共施設再配置計画への参画を機に、「学校」を公共施設として見る視点を得た。多くの自治体では、公立学校は面積ベースで保有する公共施設の4〜6割を占め、高齢化と人口減少に伴い将来的に公共施設を現在の財源で維持することが困難と予測されていた。公共施設総量のおよそ3割以上の削減が必要な中、学校施設に手をつけずに財源に見合った体制とすることは不可能であった。

学校は、長く「聖域」とされてきたが、地域コミュニティの核であり、防災拠点としての役割も大きく、子どもたちが学び合う場であると同時に、保護者や地域住民が集う拠点でもある。したがって学校再編は、単なるコスト削減策ではなく、教育の質やまちづくり、地域への愛着や責任意識に関わる重要な課題なのである(写真01〜03)。

写真01
写真01:生涯学習施設と小学校が複合化されているA小学校では,休み時間に遊ぶ児童と地域の人々の触れ合いがある
写真02
写真02 休み時間には小中学生の自然な交流が生まれている
写真03
写真03 小中学校の校舎から併設されている保育園の園庭が見える

 

「学校再編」という減らし方のデザイン

近年、学校再編を契機に地域の公共空間や学びの場を再構築する動きも見られる。地域が運営に関与する「コミュニティスクール」や、教育とまちづくりを融合させた新しい公共施設のあり方が模索されている。さらに「こども基本法」の施行により、まちづくりや政策形成に子どもたちの意見を取り入れることも推奨されている。こうした取り組みは、子どもたちが地域社会の一員として育ち、主体的にまちづくりに関わる環境を育む(写真04,05)。学校再編が、地域への愛着や責任感を育てる機会となれば、それ自体が生きた学びの環境となる。人口縮減への対応にとどまらず、新たな時代に向けた価値創造の視点から、地域にとって「より良い状態」を考える「減らし方のデザイン」が求められている。

写真04 葉山町の「楽校(がっこう)作ろう!ワークショップ」
地域の小学生から大人までが参画して未来の学校の姿を話し合った
写真05 葉山町楽校づくりワークショップでのコンセプト発表風景
「子どもをナメるな 〜子どもは永遠・みんなこども〜」と書かれたボードを説明する中学生
〈参考文献〉
*1)ワンセット主義:必要と考えられる一連の公共施設を一通り各自治体がそれぞれに保有しようとする考え方。

倉斗綾子(くらかず りょうこ)

千葉工業大学創造工学部デザイン科学科 教授。東京都立大学大学院博士課程修了。博士(工学)。学校教育施設、こども施設を対象とした建築計画研究を軸に、近年では公共施設マネジメントや街づくり、地域コミュニティのデザインに対し活動を展開している。