特集 学校統廃合による子どもと地域の困難と期待

名城大学 人間学部 教授 笠井尚

学校統廃合が子どもや地域に及ぼす影響:小規模校の将来はどうなるか

学校の統廃合がなぜ推進されるのか

学校統廃合は、社会的な影響の大きい行為です。小中学校は12~18学級程度を目指して行われます。

全校児童生徒数が1ケタ台になって将来子どもの数の増加が見込めない、津波防災のために高台移転しなければならないなど不可避の事情が背景になることもあります。規模の小さい学校間の距離が比較的近いため、集約が可能な場合もあるようです。

歳出削減は統廃合を進める大きな理由です。同時に、適正規模が子どもたちの成長によいという説明がなされます。切磋琢磨する環境である、社会性が育成できるなどの点は統廃合推進の効果として期待されます。小さな学校が保護者からも支持されにくい状況にあって、学校運営や自治体財政による統廃合の判断は加速しそうです。

統廃合が子どもに与える影響とは

一方、廃校を伴う統合は、子どもたちや地域のアイデンティティと生活・居住に直結する問題です。子どもたちが遊んでいた裏山は、手入れされなくなります。廃校になる学校が行っていた地域での活動はなくなるか急速に廃れます。学校がなくなると、就学年齢の子どもを持つ家庭がその地域に住むという選択はしにくくなります。
スクールバス通学になった地区の子どもは、学校近隣の子どもよりも歩かない=運動量が少ないようです。長時間のバス通学により、子どもたちの生活時間が奪われたり疲労が蓄積したりすることも心配されます。バスが1時間で数十kmも移動できる地域では、豪雨時の学校による帰宅判断も難しいようです。

施設の整備=統廃合ではない

子どもの数の減少は進んでいますから、統合したとしても、クラス替え可能な学校規模、クラブ活動の幅広い選択など、従来のような学校のあり方はもはや期待できないとも考えられます。小規模校を残すための努力も各地でなされているようです。教科ごとに教員を配置しなければならない中学校を小学校と統合することで残すこともひとつの方法です。学区外から子どもが通える小規模特認校の制度もあります。ICTの活用も含み、効果的な交流を図る学習方法もあるようです。

小規模校を多様性の文脈でとらえるなら、そのよさも大切にすることができそうです。統廃合するのであれば、これまでの教育の成果が維持あるいは発展的に継承されるとか、削られるものもあるけれどよい効果が加わることも期待できるというように、子どもにとってよい環境整備を行う姿勢が求められます。施設更新が統廃合のデメリットを補う場合はありますが、施設設備の整備は統廃合とは独立して考えたほうがよい部分もありそうです。

笠井 尚(かさい ひさし)

名城大学人間学部教授。教育学から子どもや教職員などユーザーの意見を活かした学校建築を研究、近年は学校図書館の整備に注目している。「学校図書館施設計画の留意点 : 学校図書館の設計をめぐる対話をどうするか」『図書館雑誌』(2024年12月)ほか。