【書評】ケアする建築 「共在の場」の思想と実践

「朝、ここに来ると、いつもあの人と会うなぁ〜」、そんな経験をしたことありますか?
年齢も立場も職業も違う人と居合わせること、偶然だけど毎回起こること、その場所を利用することで起こるゆるやかにつながること、それらを「利用縁」と筆者は呼んでいます。

「ケアする建築」はこの利用縁によってつながった人たちが使っている建築です。そこにはいつでも開かれていて余白がある建築です。福祉施設、学校施設、保育施設、というジャンル分けされた施設ではないことがポイントです。

そして、この本ではケアとは、「福祉」という意味よりももっと広く、「お世話」という意味で使われています。僕たちも普段からお世話したり、お世話されたりしますよね、そのような日常的な支援のことです。

ではなぜ、施設でのケアではないのか、ふわっとした書き方でケアを用いているのか…。
そんな疑問を持った方にお勧めしたい本です。

ケアが家庭から飛び出し、サービスになった時から今まで、いろいろな分野で研究者や実践者がケアのことを論じてきました。それらのいろんな考えがこの本で紹介されています。まるで先生が授業の途中で余談を話すように…。それらを読むと、まるで筆者がケアについて考え、調べたノートを見ているかのようにも思えてきます。そこに、自分が調べたケアのことを書いて付け足していくことも面白いかもしません。筆者もそれを期待しているかのように多くの「余白」を残されています。これもきっと本の余白を媒介とした利用縁ではないでしょうか。

僕のこの本の中での一番のお気に入りの場所は130ページから書かれている「フードコート論」です。サービスエリアに立ち寄ってフードコートを見た時に、食べたいものや座席の確保に必死で、ケアの仕方や作り方を普通、思いつきませんよね…。そうした自分が思いつかない場所もケアの建築になっていると気づかせてくれる本です。

(福井大学 西本雅人)

 

書名  ケアする建築 「共在の場」の思想と実践
著者名 山田あすか
発売日 2024年1月
価格 定価2,300円(税抜)
ISBN 978-4-306-04711-2
版型 A5判
ページ数 240ページ
出版社 鹿島出版会
リンクURL https://kajima-publishing.co.jp/books/architecture/a7ql4xdn7v/